噛みしめる力が歯を壊している(虫歯編)

夜寝ている時だけではなく、日中でも、我々は無意識の内に強い噛みしめを行っています。姿勢の変化に伴い、その力は一部の歯に集中し、様々な歯のトラブルが生じます。前回は歯に生じる割れ目について取り上げましたが、今回は虫歯の発生について説明します。

下の動画をご覧下さい。

虫歯と言えば少しずつ歯が溶けていくようなイメージではないでしょうか?

しかし、実際には噛みしめによって割れ目が生じ、

食べものや虫歯の細菌が作り出す酸が中に浸透して象牙質を軟化させます


象牙質の裏打ちを失ったエナメル質は、噛む衝撃によって欠け落ち、突然ぽっかりと穴が開き、虫歯だと気がつくことになります。

これは道路のアスファルトが下の土壌の流動化によって陥没してしまうのに似ています。

食べものの嗜好や噛みしめる力の大きさ、あるいはエナメル質の厚みや堅さも皆さんそれぞれです。

従って虫歯の進行速度も様々なのですが、このタイプの進行は数ヶ月で進むこともあり得ます。

定期的に歯科を受診しているのに、虫歯が新たに発見され、治療を繰り返しているというような方は噛みしめの力が背景にあるかもしれません。

かみ合わせのバランスを整えて、一部の歯に破壊的な噛みしめの力が加わらないようにするかみ合わせ治療は、虫歯の進行を遅らせたり、新たな虫歯を作らないようにする予防的な治療と言えます。

つまり「予防的かみ合わせ治療」ということになります。

噛みしめる力が歯を壊している⑥

割れ目が深く神経まで達することもあります。

こちらは前回とは別の方ですが、60代女性の上あごの奥歯です。

ただ噛むだけならば何とも無いのですが、食事の際に下の矢印の部分に食べものが触れると飛び上がるくらい痛い!! とのことでした。

さらによく見てみると、複数の割れ目が見られます。

左側の方が褐色のラインが濃く、古くからあったものと思われます。手前の方は薄いラインで、おそらく最近出来たのでしょう。

複数の割れ目が繋がって、歯が割け、内部の神経まで達したものと思われます。

食事の際に割れ目が広がるように力が加わると神経を刺激するために、激痛が走るのだと推察されました。

このような場合、割れ目に沿って細菌が神経に達し感染を起こし、さらにひどい症状が起こるため、神経を取る処置が必要になります。

次の写真は神経を取るために歯に穴を開けたところを側面から覗いたところなのですが、共に割れ目が深いところまで達しているのが分かります。

よく見ると隣の小臼歯にも割れ目が入っているのが分かります。

前回ご覧頂いたお茶碗の割れ目と同じで、一度歯に割れ目が生じると自然に治ることはありません。

今回は60代の方の例をご覧頂きましたが、年齢にかかわらず同様のトラブルは起こり得ます。

そして、その原因こそ、日々無意識の内に歯に加えられる強大な噛みしめる力なのです。

噛みしめる力が歯を壊している⑤

こちらの写真をご覧下さい。

60代女性の下あごの大臼歯なのですが、古い詰め物が入っています。その周りは一部黒ずんでいて、歯との境目から中に虫歯が進んでいる疑いがあります。

それはさておき、丸印の部分をよく見て下さい。

そう、詰め物の脇の部分の歯に割れ目が入っていますね!一部欠け落ちて窪んでいるのも分かると思います。

実はエナメル質は単体の素材で出来ているのではなく、エナメル小柱という微細な立方体が整然と組織的に並んだ構造で出来ています。組織構造にはもろい部分もあり、強いかみしめの力が加わり続けることで割れ目が生じることがあるのです。

これはお茶碗に生じた割れ目です。

裏返してみると割れ目は裏側まで達しているのが分かります。落としたりして衝撃が加われば、間違いなくこの割れ目に沿った部分が欠け落ちることでしょう。

我々の歯もお茶碗をひっくり返してカチカチ、ぎしぎしとかみ合わせているようなものですね。

噛みしめる力が歯を壊している④

前回いろいろな姿勢のイラストを示しました。

嫌いな勉強に仕方なく取り組んでいるようです。いらいらして頬杖をついています。この状態で噛みしめれば一部の歯にグーッと強い力が加わる事になるでしょう。

 

 

腕枕をしながらTVを鑑賞中です。エキサイトしたり、息を呑んで集中して噛みしめれば、やはり一部の歯に強い力が加わるでしょう。       

 

 

寝ています。もう、歯ぎしりギリギリで噛みしめています。どんな夢を見ておられるのでしょう?楽しい夢ではなさそうです。怖い夢?苦しい夢?この場合はいろいろな歯に代わる代わる力が加わっていそうです。

 

いかがですか?

皆さんの中には、ふとした瞬間に一部の歯に力が込めて噛みしめていることにハッっと気がつかれる方もいらっしゃるかも知れません。

そう、寝ているときだけではなく、日中でも我々は無意識の時間があるのです。

厳密に言えば一つのことに集中することにより、他の事に意識が行かない状態といえます。

この時、意識しても出来ないような強い噛みしめる力が発揮されている可能性があるのです。

噛みしめる力が歯を壊している③

突然ですが、かみ合わせについて理解を深めるために、ちょっと以下の事を試してみて頂けますか?

1.まっすぐ前を向いて、小さく、軽く、下顎を開け閉めして上下の歯をかみ合わせてください。

 そうすると、普段の食事の時のように噛めると思います。

次に、軽く下顎を開けてリラックスした状態のまま、

2.頭を前に傾けてからゆっくりとかみ合わせて下さい。

 今度は前歯だけが当たって奥歯が当たらないのが分かります。上下の前歯の重なりが少なかったり、下の前歯が上の前歯より前に出ている方はそうはなりませんが、1のようには噛めないのは分かると思います。

3.頭を横に傾けてからゆっくりかみ合わせて下さい。

 今度は傾けた方の歯が先に当たるのが分かると思います。歯並びの関係によってはそうならない方もいらっしゃるかも知れませんが、やはり1のようにはならないことが分かると思います。

姿勢によって頭の傾きが変わると、もともと頭の骨にぶら下がっているだけの下顎は偏った方向にずれてしまいます。そのため1のように噛めなくなってしまうのです。

ちなみに、

4.頭を横にひねってからゆっくりかみ合わせると

やはり1のようには噛めないと思います。この場合は頭の傾きよりも下顎の骨に付着している筋肉に引っ張られて下顎がずれてしまうのが原因です。

いかがでしたか?姿勢の変化によってかみ合わせって変わっているのですよね。

そして、我々はいつもまっすぐ前を向いて生活しているわけではありません…