お餅でも何でも食べられるけれど…

「お陰様でお餅でも何でも食べられて、周りの方から羨ましがられるのですけれど…」

80代女性の患者さんはこう切り出されました。

「朝、入れ歯を外した自分の顔を見ると、どうしてこうなっちゃったのかなあ?と思うのです…」

上顎は総入れ歯で、歯の頭をカットした奥歯の根が2本残っているだけ。

下顎も前歯が3本だけなので、インプラントを左右に2本入れて維持装置を組み込むことにより大きな入れ歯を安定させることができました。そのため、普段も外に行かれても何不自由なくお食事出来るようになったのです。

しかし、この方がこれだけの歯を失うまでにどれだけの多くのトラブルや経緯があったのだろうかと思うと暗然たる気持ちになるのです。

昔は痛いと歯を抜くのが治療だったこともあったようです。根管治療など、歯を抜かずに治療する技術の普及によって、現在ではいきなり抜歯ということは少なくなっています。

高齢化社会となり、80歳以上でも多くの歯が残っている方は増えていて、かえって清掃の困難さからお口の中の細菌が原因で肺炎になり、重篤な問題となることが分かって来ています。

その一方で、残っている歯が多く、自分の歯で噛むことが出来るほうが介助なく自立して生活されている方が多いという調査結果があることも事実です。

『歯科治療の本質的な目標とは何でしょうか?』

一般的に痛みや食事の不自由さから歯科医院を受診されることが多いため、治療に区切りが付けば治療はおしまい、次また問題があれば連絡する、という方は多くいらっしゃるようです。

あるいは大きなトラブルになる前に治療できるよう、定期的に歯科医院を受診して予防に励んでいる方も増えておられます。

いずれにしても皆さんはそれぞれ歯科治療を『目的』があって受診されておられる訳ですが、歯科治療の本質的な『目標』とは何か?という上記の問いについて面と向かって歯科医師と話し合ったことは殆どないのではないでしょうか。

私は歯科治療の本質的な目標とは

「ずっと歯のトラブルなく、生涯自分の歯で噛んで食べられること」

だと思います。

歯は再生しない組織なので、消耗して行くのは否めません。しかし、それでも自分の歯でずっと生活したいというのは、まさに冒頭の患者さんのお嘆きからもおわかり頂けるように、万人の願いであり、歯科治療の本質的な目標なのだと思うのです。

『予防的かみ合わせ治療』はかみ合わせを整えることにより不適切な噛みしめの力が歯に加わることを防ぎ、歯のトラブルを予防する治療であり、この目標に則したものであると思っております。治療は年齢に関わらず、いずれの方にも適応され得るものです。是非関心を持って頂けますと幸いです。