顎が痛くて口を開けられない

先日「顎が痛くて口を開けられなくなってしまい、困っています」とおっしゃる患者さんが来院されました。

確かに、口を開けて頂くと指2本弱くらいのところで左の顎に痛みがあり、それ以上開けられません…

寒くなると筋肉が縮こまった状態になりやすいからでしょう。冬場になると普段から顎の関節のコンディションが思わしく無く、開け閉めするときにガクガクしたり引っ掛かるような感じのある方にこのような症状が起こりやすいようです。

歯科専門的には顎関節症の症状の一種で、『クローズドロック』と言われる状態です。

今回は当院での対処法についてお知らせしたいと思います。

1.温める

耳の穴の前1㎝くらいに顎の関節があります。そのあたりを温めて縮こまった筋肉の血流を促進させることにより、リラックスを図ります。

温めるのには「蒸しタオル」を用います。水を固く絞ったタオルを電子レンジで温め、保温のために乾いたタオルを巻いて使います。温度が高いと火傷をしてしまいますから、患者さんに加減を伺いながらあてがいます。

2.「リーフゲージ」を噛んでもらう

リーフゲージとは下の写真のように、薄い小さな短冊状のストリップスを束ねたもので、当院のかみ合わせ治療になくてはならない道具です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒸しタオルで顎の関節部分を温めながら上下の前歯に挟んで噛んでもらうのですが、いくつかコツがあります。

①頭の傾き 

 頭は後ろに反らした方が適切に噛むことが出来ます。

②下顎だけ閉じるようにする

 下の写真のように頭を後ろに反らせたまま下顎だけ閉じるようにお願いします。

 

 

 

 

こちらで指示しないと殆どの方は下の写真の様に頭を前に倒してしまいます。これでは適切にリーフゲージを噛ませることが出来ません。

 

 

 

 

③リーフゲージの枚数

 上記のことに気を付けながらリーフゲージを噛んでもらうのですが、リーフゲージの枚数が少ないと上下の奥歯が当たり、噛んでしまっている事があり、適切ではありません。枚数を増やして奥歯が当たっていないことを確認します。

 リーフゲージの枚数が多すぎてもかえって誘導が困難になりますので、あまり厚くしないようにすることも大切です。

④リーフゲージを噛む力と時間

 リーフゲージは断続的に噛んで頂きます。噛むと痛みがあることが殆どなので、痛みが耐えられる範囲で出来るだけ強く、とお願いします。

 5秒間噛んで、5秒間お休み。また5秒間噛んでで、5秒間お休み…これを繰り返します。まずはこれを5分間行います。患者さんは徐々に噛んだときの痛みが少なくなって行くのが分かるようです。

3.口が開くか確認する

 顎の関節を温めながら、上記のようにリーフゲージを断続的に5分間噛んでもらった後に口を開けて貰います。まだリーフゲージは上の前歯の裏側に置いたままです。そしてその際、

 ・下顎を前にずらしてから開ける

事が重要です。下の前歯が上の前歯を追い越すように下顎をしっかり前に移動してから口を大きく開けて頂きます。

痛みなく(あるいは少ない状態で)口を大きく開けられれば成功です。今回の患者さんはこれで3横指開けられるようになりました。

 改善が見られない場合は2.を繰り返し行います。

4.患者さんへの注意

患者さんにはこのリーフゲージをお渡しして、ご家庭でも同じように対応出来るとお知らせしています。リーフゲージの噛み方も重要なのですが、口が開きにくいときにはいきなり下顎を開けようとせずに、前に大きくずらしてから開けるように注意して頂きます。

5.かみ合わせの調整

これはオプションですが、顎関節のコンディションが改善した状態でかみ合わせの状態があまりに思わしくない場合は調整をお勧めしています。今回の患者さんは了解が得られたため、調整を行いました。

「お化けが怖い」というのと一緒で、口が開かなくなると多くの方は驚いてパニックのようになると思います。しかし、きちんと対処法を知っていれば状況を改善することは出来るのです。

症状が出たときは早めの受診をお勧めします。慢性化したクローズドロックは改善しにくい傾向があります。

噛みしめる力が歯を壊している(知覚過敏編②)

ご推察の通り、噛みしめる力によって歯の神経が病的な状態になります
下の動画をご覧下さい。

歯の神経の出入口は根の先端0.3〜0.5㎜程度の小さな穴にあります。そのため、強いかみしめで根の先が揺すられたり、強く押し込められることが繰り返し行われることによって循環障害が生じ、炎症が引き起こされます。

この炎症が更に根の中の神経に及ぶと

温度変化に対する感受性が変化します。
そして、冷たい物や熱い物を口に含むと

と言うことになります。
神経を取る処置をした、いわゆる失活歯についても温度変化によって凍みる症状が出ることがあります。
これは根の周りのクッションとなる歯根膜にも温度センサーが組み込まれているためで、同様の機序によって炎症が起きる事が原因です。

かみ合わせの治療をして噛みしめによる破壊的な力がコントロールされ、神経の循環障害が改善されれば、凍みる症状は回復します。ただ、対応が遅れて炎症が後戻り出来ない、非可逆的なものとなってしまえば、症状は治まらず、神経を取る処置が必要となります。

いきなり後戻りの出来ない炎症となることはありません。凍みる時は早めにかみ合わせのチェックと調整を行う事をお勧めします。

噛みしめる力が歯を壊している(歯周病編)

少し間が開いてしまいましたが、続きです。

無意識の強い噛みしめが歯を壊しているシリーズ、今回は歯周病の進行について取り上げます。

下の動画をご覧下さい。

強い噛みしめにより歯の根を支えている歯槽骨には強い破壊的な力が加わります。

歯周病による歯肉の炎症があると、これらの力と相まって歯槽骨が破壊され、急速に病状が進んでしまいます。



 

『歯周病予防のためには丁寧なブラッシングが重要です』

これは確かに正しい。

しかし、

「言われたとおりよく歯を磨いているのに、良くならない。疲れると歯肉が腫れて、まるで歯の症状が体調のバロメータみたいになっている」

と言う方々がいらっしゃるのも事実なのです。

これらの方々には通常のようなブラッシング指導、定期的なクリーニングや歯石取りだけでは歯周病の進行を抑えることは出来ません。予防的なかみ合わせ治療を行い、歯槽骨に対する破壊的な噛みしめの力をコントロールする事が不可欠なのです。

噛みしめる力が歯を壊している(虫歯編)

夜寝ている時だけではなく、日中でも、我々は無意識の内に強い噛みしめを行っています。姿勢の変化に伴い、その力は一部の歯に集中し、様々な歯のトラブルが生じます。前回は歯に生じる割れ目について取り上げましたが、今回は虫歯の発生について説明します。

下の動画をご覧下さい。

虫歯と言えば少しずつ歯が溶けていくようなイメージではないでしょうか?

しかし、実際には噛みしめによって割れ目が生じ、

食べものや虫歯の細菌が作り出す酸が中に浸透して象牙質を軟化させます


象牙質の裏打ちを失ったエナメル質は、噛む衝撃によって欠け落ち、突然ぽっかりと穴が開き、虫歯だと気がつくことになります。

これは道路のアスファルトが下の土壌の流動化によって陥没してしまうのに似ています。

食べものの嗜好や噛みしめる力の大きさ、あるいはエナメル質の厚みや堅さも皆さんそれぞれです。

従って虫歯の進行速度も様々なのですが、このタイプの進行は数ヶ月で進むこともあり得ます。

定期的に歯科を受診しているのに、虫歯が新たに発見され、治療を繰り返しているというような方は噛みしめの力が背景にあるかもしれません。

かみ合わせのバランスを整えて、一部の歯に破壊的な噛みしめの力が加わらないようにするかみ合わせ治療は、虫歯の進行を遅らせたり、新たな虫歯を作らないようにする予防的な治療と言えます。

つまり「予防的かみ合わせ治療」ということになります。

噛みしめる力が歯を壊している④

前回いろいろな姿勢のイラストを示しました。

嫌いな勉強に仕方なく取り組んでいるようです。いらいらして頬杖をついています。この状態で噛みしめれば一部の歯にグーッと強い力が加わる事になるでしょう。

 

 

腕枕をしながらTVを鑑賞中です。エキサイトしたり、息を呑んで集中して噛みしめれば、やはり一部の歯に強い力が加わるでしょう。       

 

 

寝ています。もう、歯ぎしりギリギリで噛みしめています。どんな夢を見ておられるのでしょう?楽しい夢ではなさそうです。怖い夢?苦しい夢?この場合はいろいろな歯に代わる代わる力が加わっていそうです。

 

いかがですか?

皆さんの中には、ふとした瞬間に一部の歯に力が込めて噛みしめていることにハッっと気がつかれる方もいらっしゃるかも知れません。

そう、寝ているときだけではなく、日中でも我々は無意識の時間があるのです。

厳密に言えば一つのことに集中することにより、他の事に意識が行かない状態といえます。

この時、意識しても出来ないような強い噛みしめる力が発揮されている可能性があるのです。